◆ 「全米チャートの基礎知識」 (2) (「New Hikki's World BBS」:さとピーさん記) ◆

これは、04年8月24日〜27日に、宇多田ヒカルのファンサイト「New Hikki’s World」の掲示板に掲載された文章です。
ただし、今の時点で間違っていたり、新たに情報が分かったりという部分は、書き換えてあります。
また、「ビルボード」の最近の変化に対しても、説明を加えてあります。時間軸を多少混乱する人がいるかもしれませんが、ご了承下さい。
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(2) 「HOT100」の現状


話は「今」に入ります。今のチャートを見てみると、「ビルボ」と「ラジレコ」の順位が大きく違ってきている事に気が付きます。上でも書きましたが、「ビルボ」の総合チャートは、シングルセールス1に対して、エアプレイ3の割合で独自のポイントを出して、作成されています。一方「ラジレコ」のPOPチャートは、「ベストヒットUSA」で小林克也氏が言ってるように、アメリカのラジオ局で掛かる放送回数で順位を決めています。でも、そうなると、ちょっとおかしい事が起きているんですね。


例えば「ビルボ」でついこの間まで1位を取っていたアッシャーの「ConfessionsPartU」。この曲はオンエアーのみで、シングルの発売なし。同じ頃「ラジレコ」で1位だったフーバスタンクの「TheReason」も、オンエアーのみでシングルの発売はありませんでした。これ、不思議ですよね。だって両方ともオンエアーのみなら、ラジオチャートではるかに上位の「TheReason」(ちなみにアッシャーの曲はTOP20に入ってきたばかり)が「ビルボ」でも1位にならなくてはいけないのに、4位とか7位でした。


その謎は、フォーマットにあります。「ビルボ」を見てみると、総合チャートの「HOT100」以外にも、「R&B/ヒップホップ」とか「カントリー」とか「ロック」とか「ダンス」「ラテン」「アダルトコンテンポラリー」などたくさんのフォーマットがある事が分かります。98年のチャートの変更以降、これらのポイントも加わったわけですが、どうやらポイントの平等性とかで、「メインストリーム」局も、「ダンス」局とかも、みな同じポイントになっているみたいなんですね。


どういう事かと言うと、例えば、もし日本でアメリカと同じような専門局があったとして、同じようにポイント制にすると仮定します。そうすると「ヒット曲専門局」で掛かる曲(A)も、「演歌専門局」で掛かる曲(B)も、1回掛かると1ポイントですよね。各県それぞれ1局ずつあると仮定して、1位の曲がそれぞれ1週間に50回ずつ掛かると、A1位もB1位も、それぞれオンエアーポイントは同じ50ポイントになります。これっておかしいですよね。だってAの曲はヒット曲専門局(メインストリーム局)の曲だから、一般的音楽ファンに支持されて1位になったわけでしょう。一方Bの曲は演歌ファンだけの支持で、演歌専門局で1位になったわけですよ。それがポイントは同じ50だから、同じ順位って(笑)?


実は「ビルボ」の総合チャートの順位って、これと同じ論理で作成されているんですね。一番の問題点はそこにあります。だって言うまでも無いことですが、大衆に支持されているからこそのメインストリームでしょ。これがOneOfThem(その他大勢の一つ)では、正しいヒットチャートなんて出来ませんよ。なにせ、リズミックやヒップホップ、C&Wの専門局って、アメリカではメインストリーム局に負けないくらいの数があるんですから。


更に言えば、複数のフォーマットにランクされる可能性の高い曲も、有利ですよね。ヒップホップの曲なんて、ヒップホップ局はもちろん、リズミック局でも掛かりますし、ダンス局でも掛かります。それらのポイントが加算される上に、必ずと言って好いほど、シングルも発売されるわけですから、近年のヒップホップ全盛も、「ビルボ」のチャート作成の有利性が働いているんじゃないか、と文句を言われてもしょうがありません。ちなみに、「ビルボ」のメインストリームのフォーマットを見てみると、実は「ラジレコ」の順位と殆ど変わっていない事に気が付きます。これを見ても「ラジレコ」は、メインストリームのチャートである事がハッキリと分かります。


それでは、この両誌の「TOP5」を見てみましょう。まずは8月21日付の「ビルボ」です。1位が「LeanBack」(テラー・スクワッド)ラジレコ31位。2位が「SlowMotion」(ジュヴ・ナイル)ラジレコ12位。3位が「Sunshine」(リル・フィリップ)ラジレコ21位。4位が「TurnMeOn」(ケヴィン・リトル)ラジレコ4位。5位は「DipItLow」(クリスティーナ・ミリアン)ラジレコ3位。TOP3が、何とも言えずマイナーですね(笑)。これに対して8月20日付の「ラジレコ」は、1位が「Leave」(ジョジョ)ビルボ15位。2位が「PeacesOfMe」(アシュリー・シンプソン)ビルボ13位。3位が「DipItLow」ビルボ5位。4位が「TurnMeOn」ビルボ4位。5位が「MoveYaBody」(ニーナ・スカイ)ビルボ8位。文字通り、ヒットパレードです。チャートマニアなら、どちらがアメリカのヒット状況を反映してるか、一目瞭然ですね(笑)。


ヒット曲というのは、やっぱり10代の女の子の支持がなければダメですよ。これはどんな国でも同じです。今、アメリカの女子中高生に支持されているアーティストといったら、圧倒的にアヴリル・ラヴィーンだと言われています。もちろん、ブリやクリも依然として人気者です。ヒラリーやケリーも人気が高いし、新人だとアシュリー・シンプソン、ジョジョの人気も凄いです。彼女達の新曲は必ず「ラジレコ」の順位に反映されていますね。ところが、「ビルボ」では、ちょっと揮いませんよね。これ、ちょっとおかしくないですか?だって、アメリカの白人は、人口比で7割以上いるんですよ。黒人とヒスパニックは12〜13パーセントです。最新データでは若干ヒスパニックが黒人を上回ったようですが。でも「ビルボ」のTOP20を見てみると、いつも7〜8割が黒人系のアーティストです。確かに、白人の若者もここ10年ぐらいはヒップホップのCDを買ってます。また昔でも、黒人系のアーティストがTOP20の3〜4割を占めた時もありました。でも人口比を考えたら、黒人系の音楽がチャートの上位の7〜8割占めるのは有りえません。白人系の若者が音楽を聴かない事も有りえないし、彼らが黒人系の音楽しか聴かないというのも、有りえないと思います。


そんなわけで、ぼくは今の「ビルボ」のHOT100チャートを、実は全く信頼してないのですね(笑)。でも、もっとも伝統あるチャートは「ビルボ」ですし、アメリカの現況を知らない日本のマスコミが頼りにしてるのも「ビルボ」ですので、悩ましいですね。という事で、未だに「世界標準」である「ビルボ」を使わざるを得ないのは、チャートファンとしては残念です。


さて、非黒人系が3割ぐらいしかいない「ビルボ」のチャートに、非黒人系がチャートインするというのは、かなりの難度だということが分かってきたと思いますが、非黒人系が「TOP40」に入れれば、80年代の「TOP10」に入るぐらいの評価をあげて好いんじゃないかな。意外と「TOP40」が難度が高いのは、それだけじゃないんです。毎週「TOP40」に新登場出来る曲って、平均すると実は3〜4曲ぐらいしかありません。日本の「オリコン」の「TOP40」って、毎週15曲前後入れ替わるでしょ。3〜4曲の入れ替わりって、「TOP10」ぐらい?週によっては「TOP5」ぐらいと思っても好いですよね。更にアメリカの「TOP40」は、一度ランクインすると長いし、落ちません。いわゆるロングヒットが多いんですよね。つい最近落ちた3ドアーズ・ダウンの「HereWithoutYou」なんて10ヵ月はランクされていました。まあ、ヒカルの「EasyBreezy」がもし「HOT100」の「TOP40」に入ったら、「何だ大した事ないな」なんて言わずに、誉めてあげて下さい。非黒人系が入るのがいかに大変かは、今説明した通りですから。ましてや、アジア系で、しかも新人なんですからね。「Sukiyaki」の時とは時代が全く違いますよ(笑)。そして目標は、「ラジレコ」の「TOP20」でしょうね。「ベストヒットUSA」で小林氏がどんなコメントを言うのか楽しみです。


シングルの話の最後は、新チャートになってからの、具体的な例を見ていきたいと思います。まず、非黒人系の話ですが、新チャートで一番白人系の割合が高かった「TOP10」は、02年の3月5日付、3月12日付での7曲が最高かな。一応、ジェニロペを白人として、更にフューチャリングは外してという条件ですが。5日は、1位がジェニロペ、3位がニッケルバック、4位がリンキンパーク、5位がノー・ダウト、6位がザ・コーリング、9位がクリード、10位がパドル・オブ・マッドでした。12日はクリードの代わりに10位にカイリー・ミノーグが入っています。今から見ると、どうしたんでしょう(笑)というチャートですね。この年の3月30日付では、なんと「TOP3」が1位、ジェニロペ、2位がリンキンパーク、3位はニッケルバックと白人系が独占しました。これ以降は、そんな記録は有りません。


又ロック系の1位は、01年の12月22日付でニッケルバックの「HowYouRemindMe」が1位となって、4週連続以来ありません。今年の6月12日付で、フーバスタンクの「TheReason」が2位に上がった時は、期待したんですけどねえ。もっとも「ラジレコ」では、5月21日付から7月9日付まで8週連続1位で、この曲が今の所、今年のアメリカの最大ヒット曲という事実は変わりませんが(笑)。


次に、新チャートになって一番欠点が目立つ、「アメリカン・アイドル」関係のチャートの経緯を語ってみます。今年の7月10日付で初登場1位になったのはファンテイジアの「IBeleave」でしたが、なぜこんな事がおきたんでしょう。これには、シングルの売れ行き不振が関わっています。シングルが売れてない実情は上でも述べましたが、とにかく「シングル・セールス・チャート」の1位は、普通の週だと1万枚ぐらい売れればなれちゃうわけですからね、ひどいもんです。おまけに、どんなに売れても、すぐ廃盤にしちゃいますし。1ヵ月で廃盤なんてざらです。シングルはアルバムセールスの宣伝のためであり、チャートの順位を上げる為に出していると言っても過言ではありません。それでも、メチャクチャ売れれば、順位を一気に上げることが出来ますよね。テレビの人気者が、テレビで曲や自分の名前を売り込めば、あっという間にナンバーワンになれる事もあるわけです。その典型が、テレビの新人オーディション番組「アメリカン・アイドル」。今年の優勝者がファンテイジアというわけです。


この時は1週で14万枚売れましたが、このぐらい売れると、「ビルボ」の1位が取れるわけです。しかしこの曲は放送回数が伸びず、あっという間に6位、18位・・・と転落してしまいましたけどね。「アメリカン・アイドル」のさきがけは第1回優勝者のケリー・クラークソンでした。02年9月28日付の「ビルボ」でオンエアーのみで初登場52位。翌10月5日付で、シングルを23万6千枚売って、一気に1位に駆け上がりました。これは1位へのジャンプアップの新記録でしたね。でも1位を2週続けた後、ズルズル後退してしまいます。去年の6月28日付でも、第2回優勝者のルーベン・スタッダードの「FlyingWithoutWings」が初登場2位。準優勝者のクレイ・エイケンの「ThisIsTheNight」が初登場1位となりました。こちらも2週連続1、2位の後どんどん落ちてしまいましたが。という訳で、いったいあの曲はヒットしたのかと問われれば、「ヒットしなかったでしょう」と答えるしかない結果に終っています。それでも、「ビルボ」1位という記録は残るわけで(笑)。欠陥だらけのチャートと悪口を言われても、しょうがないでしょう。


(今は05年の2月16日です。この時点で、「ビルボ」の「HOT100」のランク付けの集計方法が大きく変わったので、追記しておきます。実は2月12日付の「HOT100」から変わりました。年度の途中からの変更は初めてで、「ビルボ」がかなり切羽詰っての、止むに止まれぬ改革なのかなという印象を受けました。重要な変更点の第1は、シングル売り上げにデジタルダウンロードの売り上げが加わったという事。第2点は、それに伴って従来のシングル売り上げとエアープレイの割合が25%:75%(1:3)だったのが、33%:67%(1:2)になった事。第3点は、ストリート系とC&W系の局のポイントの割合を低くした事。第4点はチャート集計には関係ないけど、ゴールドディスクやプラチナディスクのマークを復活した事です。特に一番重要なのは第3点。どういう事かと言うと、ハードコア・ヒップホップなどリズミック系の割合を低く設定したという事ですね。おそらくダンス系も下がっているんじゃないかな。これは上でぼくが書いた、アメリカでのヒット状況が現実離れしてきた危惧から来ていると思うけど、まだまだ足りないよね。だって大衆から支持されてこその「メインストリーム」なわけだから、少なくとも「メインストリーム局」のポイントが、エアプレイの半分を占めるぐらいの改革をやらないと、今のヒット状況を反映した事にならないし、危機はまだまだ続くと予想しています。)

全米チャートの基礎知識 (3) 「アルバムチャート」へ続く